とある博士のパパさん日記

今後は主に出産・育児に備えた記事を書く予定です。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の概要

背景

 2019年12月、原因不明の肺炎のいくつかの症例が中国の武漢で報告されました。病原体は、最初は2019-nCoVと呼ばれ、後に重要急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV2)に改名され、新型コロナウイルスと呼ばれるようになりました。

 この呼吸器疾患である新型コロナウイルス感染症COVID-19)は、ヒトからヒトへの感染により急速に広がり、世界中で大規模な集団発生を引き起こし、かなりの罹患率と死亡率をもたらしました。2020年3月11日、WHOはCOVID-19をパンデミックと分類しました。政府は予防、治療、社会経済的課題のバランスを取るため、保険システムと世界経済に重点を置いています。

 

ウイルス学および免疫学

 コロナウイルス科βコロナウイルス属に分類されるSARS-CoV-2(新型コロナウイルス)は、ヒトに感染することが知られている7番目のコロナウイルスです。コロナウイルスは哺乳類と鳥類の宿主を持に持ち、エンベロープを持つ一本鎖RNAウイルスです。ヒトコロナウイルスには、軽度の季節性疾患に関連する229E、NL63、OC43、およびHKU1のほか、過去の重症急性呼吸器症候群SARS)および中東呼吸器症候群(MERS)の発生の原因となるウイルスとは違います。遺伝子解析により、コロナウイルスの起源は蝙蝠(コウモリ)とされていますが新型コロナウイルスの出現には他の動物が中間宿主として関与していることが示唆されています。

  新型コロナウイルスのゲノム配列(遺伝情報)はおよそ3万塩基で、プロテアーゼとRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)以外に、いくつかの構造タンパク質も含まれています。新型コロナウイルスは粒子様の形状をしており、ウイルスゲノムであるRNAゲノムに結合したヌクレオカプシドタンパク質(N)によって形成された螺旋状のカプシドと、三量体スパイクタンパク質(S)で覆われた外皮にマトリックスタンパク質(M)とエンベロープタンパク質(E)で構成されています。 Sタンパク質は、2型肺胞細胞および腸管上皮細胞の原形質膜上のACE2酵素に結合します。結合後、Sタンパク質はヒト細胞の膜セリンプロテアーゼTMPRSS2によって切断され、ウイルスのヒト細胞への侵入が促進されます。

 SARSとMERSおよび新型コロナウイルスとの類似性に基づいた知見では、軽症時のヒトの免疫反応は主に強力なタイプIインターフェロン抗ウイルス応答とCD4陽性のTh1およびCD8陽性のT細胞応答によるウイルス排除が行われると推測されます。重症の場合は、最初の免疫反応が遅れ、単球および好中球が肺に流入することで炎症性サイトカインの産生が増加し、サイトカインストーム症候群を引き起こすと推測されます。インターロイキン-1(IL-1)、IL-6、IL-12、腫瘍壊死因子ɑなどのこれらのサイトカインは、血管透過性の増加につながり、呼吸不全の一因となる可能性があります。重度の疾患のもう1つの特徴はリンパ球減少症です。これは、リンパ球の直接感染または抗ウイルス応答による骨髄の抑制が原因である可能性があります。 新型コロナウイルス感染症に対する中和IgM抗体およびIgG抗体は感染後2週間以内に検出されます。患者が再感染から保護されているかどうかはまだ不明です。

 

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スパイク糖タンパク質(S):受容体結合と膜融合を担当・宿主中和抗体の標的

エンベロープタンパク質(E):ウイルスの感染性に重要な要素

マトリックス糖タンパク質(M):最も豊富な構造タンパク質・Eと相互作用してウイルスエンベロープを形成

*ワクチン接種の方法には、弱毒化生ウイルスおよびキメラ、サブユニット、ナノ粒子、DNAおよびRNAワクチンが含まれる。

感染と症状

 新型コロナウイルス感染症は、主に咳やくしゃみなどの飛沫感染または接触感染によって広がると考えられていますが、糞便感染の可能性も調査されています。飛沫はエアロゾル化することでより長い距離に拡散する空気感染を起こす可能性もあります。新型コロナウイルス感染症の臨床経過はさまざまであり、症例の特定とトリアージの両方が困難になります。特に、無症状および発症前の感染が報告されています。症状を呈する新型コロナウイルス感染症の場合、潜伏期間、曝露から症状発現までの時間は平均して4~5日です。最も一般的な症状には、咳、発熱、疲労などがあります。少数の患者では、発症から約5~10日で病気が悪化し、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)やその他の多臓器不全などの合併症を引き起こします。60歳以上の患者、心血管疾患、基礎呼吸器疾患、癌などの併存疾患のある患者は、これらの重篤な合併症と死亡リスクが高くなります。一方、子供ではより穏やかな軽い症状の臨床経過をたどります。

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感染経路:主に飛沫(エアロゾル化する可能性もある)

症状

熱(87.9%;診断時には44%)、乾いた咳(67.7%)、倦怠感(38.1%)、痰(33.4%)、呼吸困難(18.6%)、筋肉痛/関節痛(14.8%)、喉の痛み(13.9%)、頭痛(13.6%)、寒気(11.4%)、悪心/嘔吐(5%)、鼻づまり(4.8%)、下痢(3.7%)、味覚障害

診断と管理

 イムノアッセイ(抗体検査)、等温核酸増幅検査(LAMP法)、CRISPRベースの遺伝子検査は迅速なポイントオブケア検査を促進し、体外診断用医薬品として開発されていますが、新型コロナウイルスのような呼吸器サンプルの診断は今だに逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)がゴールドスタンダードなままです。診断されたものの中で、一般的な検査所見には、リンパ球減少症、C反応性タンパク質を含む炎症のマーカーの上昇、Dダイマーを含む凝固カスケード活性化のマーカーの上昇が含まれます。ウイルス量と炎症マーカーのレベルが高いほど、疾患の重症度が高くなります。症状のある患者の胸部CT画像は、疾患の検出に感度がありますが、非特異的です。

 新型コロナウイルス感染症の現在の管理は、感染管理、必要に応じて換気支援を含む支持療法、後遺症と合併症の治療に焦点を当てています。無症状または軽症の新型コロナウイルス感染症が疑われる患者は、曝露の日から2週間自己隔離し、必要に応じてアセトアミノフェンを使用し、水分を補給し、症状の悪化を監視することを推奨しています。より重症の患者は、低酸素症、呼吸不全、ARDS、および敗血症性ショックの治療のために入院します。

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縦軸は病気の重症度、横軸は時間経過を示す。

1. 感染してウイルスが体内で増殖(無症状)

2. 発熱または咳を伴う症候性感染症(軽症から中等度)

3. 急性呼吸窮迫症候群または敗血症、臓器不全を伴う超炎症(重症)

4. 回復または死(重篤

*3-4で炎症マーカーが上昇

治療薬とワクチン開発

 抗ウイルス剤および特定の免疫調節剤の効果を確認するために複数の臨床試験が進行中です。調査中の抗ウイルス薬には、エンドソーム成熟阻害剤(ヒドロキシクロロキン)、ウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼの阻害剤(レムデシビル、ファビピラビル)、ウイルスタンパク質合成および成熟阻害剤(ロピナビル/リトナビル)があります。調査中の免疫調節剤には、インターフェロン-βとIL-6受容体またはIL-6(トシリズマブ、シルツキシマブ、サリルマブ)の遮断が含まれます。回復期の血漿による受動免疫と、弱毒化生ウイルス、キメラウイルス、サブユニット、ナノ粒子、RNAおよびDNAを含む能動免疫戦略が開発およびテストされています。一部の治療法はさまざまな病期でより大きな有効性を示す可能性があり、視野を新型コロナウイルス感染症の療法の将来に目を向けているため、治療の一時性を考慮する必要があります。

 

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引用文献:

  1. Oberfeld, B., et al., Cell., 2020.