とある博士のパパさん日記

今後は主に出産・育児に備えた記事を書く予定です。

1-3. 新型コロナウイルス(COVID-19)のゲノム変異と進化について

新型コロナウイルスの急速な感染拡大は、遺伝子の突然変異による進化が原因か?

 新型コロナウイルスの遺伝子は、5'末端に長いORF1abポリタンパク質をコードし、表面のスパイク糖タンパク質、エンベロープタンパク質、マトリックス糖タンパク質、ヌクレオカプシドタンパク質を含む4つの主要な構造タンパク質をコードしている。

 米国の研究者らは、日本(愛知県)アメリカ(ウィスコンシン州)、オーストラリア(ビクトリア州)から分離した新型コロナウイルスのゲノム配列において3箇所の欠損を報告した(図1)。OFR1abポリタンパク質をコードする遺伝子で3塩基または24塩基の欠損、3'末端で10塩基の欠損が確認された。

 図1の赤い矢印で示すように、日本(愛知県)の新型コロナウイルスのゲノム配列は、OFR1abポリタンパク質に24塩基の欠損を持つ

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図1. 新型コロナウイルスのゲノム構成

 興味深いことに、米国のTung Phanによって、新型コロナウイルスのゲノム配列全体で93箇所の変異があることが明らかとされた。93箇所のうち42箇所はミスセンス変異、アミノ酸の置換が伴う変異であった。42箇所のミスセンス変異はORF1abポリタンパク質で29箇所、スパイク糖タンパク質で8箇所、マトリックス糖タンパク質で1箇所、ヌクレオカプシドタンパク質で4箇所であった。

 注目すべきは、ウイルスのスパイク糖タンパク質の受容体結合領域に位置する3つの変異(D354, Y364, F367)である。この領域は中和抗体の主要な標的部位でもあり、今後の中和抗体の開発に大きく影響する可能性が懸念される。スパイク糖タンパク質の変異は、ウイルスの構造変化を誘発する可能性があり、抗原性の変化にもつながる可能性がある。これまで新型コロナウイルスのスパイク糖タンパク質の構造変化に関与するアミノ酸の局在に関する研究は行われておらず、今後の中和抗体の開発において、これらのアミノ酸の同定は重要であり、さらなる研究と調査が必要だと思われる。

 スパイク糖タンパク質におけるミスセンス変異は、日本の新型コロナウイルスでは起きておらず、フランス、オーストラリア、ドイツ、中国(深圳、広東省武漢)の新型コロナウイルスで生じている。この変異の差が各国の新型コロナウイルスによる感染者数と致死率の違いに影響している可能性も考えられる。

 

引用文献:

  1. Phan, Tung., Genetics and Evolution., 2020, 81, 104260.