とある博士のパパさん日記

今後は主に出産・育児に備えた記事を書く予定です。

5-4-1. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と川崎病について

今のところ日本ではCOVID-19と関連する川崎病に類似した症例は認められていない。

 

 下記の日経メディカルの記事によると、世界中の国々、全ての年齢で新型コロナウイルス感染症COVID-19)が流行している中、 イギリス、アメリカ、フランス、イタリア、スペインなどの欧米各国で、川崎病に類似した症状を呈する小児例が相次いで報告され、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)との関連が指摘されていると報じられています。

  しかし、今のところ日本では欧米で報告されているようなCOVID-19と関連する川崎病に類似した症例は認められなかったとのことです。

 

 日経メディカルの記事では「相次いで」と記載されていますが、新型コロナウイルス感染症の報告されている20歳未満のCOVID-19患者はわずか2%で、小児でCOVID-19が確認された患者のうち90%以上は無症状または軽症、中程度の症例です。つまり、小児のCOVID-19患者はそもそも母数が少なく、川崎病に類似した症状を呈するCOVID-19症例の頻度はかなり低いと思われます。また下記で紹介するアメリカ小児学会のJonesらの報告が最初の症例報告と言われています(1)。

 2020年5月10時点で、文献の検索サイトであるPubMedで2019年12月以降に"COVID-19"を含む文献を検索した結果、文献は9,774件あり、そのうち"COVID-19"と"Kawasaki Disease"を含む文献はたったの2件でした(1,2)。2報の文献のうち川崎病を伴うCOVID-19症例の報告はJonesらの文献だけでした(1)。文献の数からも分かるようにCOVID-19と関連する川崎病に類似した症例は非常に稀なケースかと思われます。

medical.nikkeibp.co.jp

川崎病

 川崎病は1967年に日本人の川崎富作博士が初めて報告した病気で、報告者の名に因んで川崎病(KD:Kawasaki Disease)と名付けられました。報告から半世紀経った今でも川崎病の原因は不明のままです。細菌あるいはウイルス感染、スーパー抗原(一部の細菌やウイルスが産生する極めて強力なT細胞活性化蛋白質で、多量の炎症性サイトカインを放出させる)、自己抗原などを原因とする様々な説があります。川崎病主に4歳未満の乳幼児に見られる急性熱性疾患で最近では年間10,000人以上の患者が発生しています。

 川崎病では以下の6つの主要症状が確認されます。

  1. 5日以上の発熱
  2. 眼球結膜充血
  3. 口唇の紅潮、いちご舌
  4. 不定形発疹
  5. 首のリンパ節の腫れ
  6. 手掌、足底の紅斑、回復期の指先の皮膚の膜様落屑(皮膚がめくれる)

 上記の症状を5つ以上呈する場合に川崎病と診断されます。

 これらの症状は1-2週間でおさまります。解熱し、発症から2-3週ごろに後遺症として冠動脈瘤が約10%にみられます。

 川崎病急性期の治療法は、免疫グロブリン療法またはアスピリン療法が用いられ、約9割の患者が免疫グロブリン療法を受けます。川崎病発症5日後から大量免疫グロブリン療法を行い、約80%の患者さんは1回の大量免疫グロブリン療法(IVIG)により解熱します。しかし、IVIG療法が効かず、発熱が続いたり、一旦解熱しても再発熱したりする場合もあります。

 

新型コロナウイルス感染症川崎病 

 アメリカ小児学会でJonesらは、新型コロナウイルス感染症川崎病を伴う症例を初めて報告しました。患者は生後6ヶ月の女児で、38.8℃の発熱(咳、うっ血、鼻漏はなし)を呈し、急性インフルエンザの検査をしたところ結果は陰性でした。当初はウイルス性感染症と診断されましたが、翌日に紅斑性の発疹が出現し、発熱と発疹が4日続いたため再度来院しました。この時、咳はありませんでしたがうっ血の可能性がありました。検査では結膜炎と唇の乾燥ヒビ割れが顕著に確認されました。発熱、軽度のうっ血の可能性および胸部X線所見を考慮して女児はCOVID-19検査のために救急科に送られました。その後、COVID-19のRT-PCR検査で陽性と判定されました。

 女児はIVIG治療後48時間以内に退院し、COVID-19が陽性であると診断されたため、14日間自宅で待機するよう指示されました。

 川崎病の原因は不明ですが、様々な研究でウイルス性呼吸器感染症川崎病の関連が報告されており、川崎病の診断に至るまでの30日間でウイルス性呼吸器感染症が陽性である患者が9%から42%であることが報告されています。興味深いことに2015年のTurnierらの報告では、陽性結果の28%はライノウイルス/エンテロウイルス、8.7%はパラインフルエンザによるもので残りの5%未満の病原体は呼吸器合胞体ウイルス、インフルエンザ、アデノウイルスおよびヒトコロナウイルス (株229E、HKU1、NL63、OC43)であったと報告されています。

 

引用文献:

  1. Jones, Veena G., et al., Hospital Pediatrics., 2020, hpeds-2020.
  2. Harahsheh, Ashraf S., et al., The Journal of Pediatrics., 2020.
  3. 川崎病と免疫グロブリン療法について(2010年 日本川崎病学会)